「遺言書を残したほうがいいのは分かっているけど、手続きが面倒そう…」そう感じていませんか?
実は、遺言書の中でも最も手軽で費用がかからない形式が「自筆証書遺言(じひつしょうしょゆいごん)」です。
この記事では、法律に沿った正しい書き方とともに、書き間違えを防ぐポイントや無料で使えるテンプレートも紹介します。
これから遺言書を準備したい方は、まずはこの記事から始めてみましょう。
目次
自筆証書遺言とは?
自筆証書遺言の定義と特徴
自筆証書遺言とは、本人が自分で紙に書いて作成する最も手軽な遺言書の形式です。公証人などの立ち会いが不要で、思い立ったときにすぐに書けるのが最大の特徴です。
他の遺言書との違い(公正証書遺言との比較)
公正証書遺言は公証役場で作成され、法律的に安全性が高い一方で、費用や手間がかかります。 対して自筆証書遺言は費用ゼロで始められますが、形式不備があると無効になるリスクがあります。
自筆証書遺言の法的要件
全文を自筆で書く必要性
2020年の法改正で財産目録はパソコンでも作成できるようになりましたが、それ以外の本文はすべて自筆である必要があります。印刷や代筆は無効となるため注意が必要です。
日付・署名・押印は絶対に必要
日付が曖昧だと無効となる可能性があります(例:「令和◯年◯月吉日」など)。また、署名と押印が必要です。押印は認印でも法的には有効ですが、実印や銀行印を使用することで、より確実性が高まり、相続時のトラブルを避けやすくなります。
訂正方法とその注意点
間違えた場合は、以下の法定の方法で訂正する必要があります。
- 訂正箇所に二重線を引く
- 正しい文字を近くに記入
- 訂正箇所に押印(遺言書に使用したものと同じ印鑑)
- 欄外に「第○行目○字削除○字加入」と記載し、署名
複雑な訂正が必要な場合は、新しく書き直すことをお勧めします。
いつ遺言書を書くべきか
遺言書は健康で判断能力がしっかりしているうちに作成することが重要です。特に以下のタイミングでの作成を検討しましょう。
- 結婚・離婚時
- 子どもの誕生時
- 不動産購入時
- 60歳を迎えたとき
- 家族構成に変化があったとき
また、一度作成した遺言書も定期的に見直し、必要に応じて更新することが大切です。
簡単な遺言書の文例と書き方
全財産を一人に相続させる場合の文例
とにかくシンプルにしたい場合は、以下のように書けば最低限の意思が伝わります。
遺言書
私○○○○は、下記のとおり遺言する。
第1条 私の有する一切の財産を、長男○○○○(昭和○年○月○日生)に相続させる。
第2条 この遺言の執行者として、長男○○○○を指定する。
令和○年○月○日
東京都○○区○○丁目○番○号
遺言者 ○○○○ ㊞
特定の財産を相続させる場合の文例
「自宅は妻に、預金は子に」などの指定も可能です。誤解がないよう明確に記載しましょう。
遺言書
私○○○○は、下記のとおり遺言する。
第1条 私の所有する下記不動産を妻○○○○(昭和○年○月○日生)に相続させる。
所在:東京都○○区○○丁目○番○号
家屋番号:○番○号
種類:居宅
構造:木造瓦葺2階建
床面積:1階○○.○○㎡、2階○○.○○㎡
第2条 私の所有する下記預貯金を長男○○○○(昭和○年○月○日生)に相続させる。
○○銀行○○支店 普通預金 口座番号○○○○○○
第3条 この遺言の執行者として、妻○○○○を指定する。
令和○年○月○日
東京都○○区○○丁目○番○号
遺言者 ○○○○ ㊞
「相続させる」と「遺贈する」の使い分け
- 法定相続人(配偶者・子・親・兄弟姉妹)には「相続させる」を使用
- 法定相続人以外(孫・甥姪・第三者)には「遺贈する」を使用
自筆証書遺言のメリットとデメリット
メリット:費用ゼロ・即日作成可能
用紙とペンさえあれば今すぐ作成でき、弁護士費用や公証役場の手数料も一切かかりません。
デメリット:無効リスク・紛失・発見されない可能性
形式不備で無効になったり、家族に気づかれずに処分されるケースもあります。信頼できる保管方法が重要です。また、相続開始時には家庭裁判所での検認手続きが必要となります(法務局保管制度を利用した場合は検認不要)。
よくある失敗とその防止策
日付の記載ミスで無効に
「令和○年○月吉日」などは無効の可能性があるため、「2025年6月16日」のように具体的な日付で記載しましょう。
言葉のあいまいさでトラブルに
「家を長男に」といった表現では、どの家か特定できず相続争いになる可能性があります。不動産は登記簿どおりの正確な表示で、預金は銀行名・支店名・口座番号まで明記してください。
判断能力に疑いを持たれるリスク
遺言作成時に認知症などで判断能力が不十分だったとして、後に無効とされる場合があります。健康なうちの早めの作成と、必要に応じて医師の診断書を取得しておくことが重要です。
家族への配慮と事前相談
遺言書は法的に有効であっても、家族の理解が得られないと相続争いの原因となることがあります。可能な範囲で家族と事前に話し合い、遺言の内容について理解を求めることも大切です。特に遺留分(法定相続人が最低限受け取れる権利)を侵害する内容の場合は、慎重な検討が必要です。
専門家相談が必要なケース
以下の場合は、司法書士や弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
- 財産が複雑で多岐にわたる場合
- 相続人同士の関係が複雑な場合
- 事業承継が関わる場合
- 遺留分の問題が発生しそうな場合
- 税務上の配慮が必要な場合
保管方法と法務局の保管制度
自宅での保管はリスクもある
紛失・盗難・隠蔽などのリスクを避けるため、信頼できる第三者に預ける、または封印して保管するのが望ましいです。
法務局による遺言書保管制度
2020年に始まった制度で、法務局が遺言書を安全に保管してくれます。手数料は3,900円で、相続人がスムーズに閲覧でき、紛失や改ざんのリスクを回避できます。また、家庭裁判所での検認手続きも不要となります。
申請に必要な書類:
- 遺言書保管申請書
- 本人確認書類(運転免許証等)
- 住民票の写し
- 遺言書
まとめ:自筆証書遺言は「一番簡単な遺言書」
自筆証書遺言は、最も簡単に始められる遺言書です。法的要件である日付・署名・押印を守れば、誰でも作成可能です。重要なのは、健康で判断能力がしっかりしているうちに作成することです。
テンプレートを活用すれば失敗のリスクも減らせ、保管は自宅よりも法務局の保管制度(手数料3,900円)を利用することで安心です。複雑なケースでは専門家への相談を検討し、一度作成した後も定期的な見直しと更新を忘れないようにしましょう。