「遺言書」と「遺書」。似ている言葉ですが、実はまったく意味が違うのをご存じですか?
「遺書に財産のことを書いておけば大丈夫」と思っていたのに、実は無効で相続トラブルに発展する――こうしたケースは少なくありません。
せっかくの想いが正しく伝わらず、家族に争いを残してしまうのは避けたいところです。
本記事では、遺言書と遺書の違いをわかりやすく解説し、正しい使い分けや注意点を紹介します。さらに、遺言書を安心して作成・保管するためのポイントや相談先もまとめました。
目次
遺言書と遺書の基本的な違い
「遺言書」と「遺書」は似た言葉のため混同されがちですが、法律上の扱いは全く異なります。まずは定義を押さえましょう。
遺言書とは何か
遺言書は、遺産分割や相続に関する本人の意思を、民法第960条以降の規定にのっとって記した文書です。厳格な形式を満たせば法的効力を持ち、財産の分配方法や遺贈などを指定できます。
遺言書の主な機能:
- 財産の分配方法を指定
- 相続人以外への遺贈
- 遺産分割方法の指定
- 遺言執行者の指定
- 認知や後見人の指定
遺書とは何か
遺書は、人生の最後に家族や友人へ思いを伝える手紙のようなものです。原則として法的効力はなく、財産分与などの指示には使えません。ただし感謝や謝罪、人生の教訓を残すなど精神的価値は大きい文書です。
主な違いのまとめ表
項目 | 遺言書 | 遺書 |
---|---|---|
法的効力 | あり(民法第960条以降に基づく) | なし |
目的 | 財産の分配、相続の意思表示 | 気持ちや想いを伝える手紙 |
書式の制限 | あり(自筆、公正証書など) | 自由形式 |
主な内容 | 財産分与・遺贈・付言事項など | 感謝の言葉、謝罪、メッセージなど |
作成費用 | 無料〜数万円 | 無料 |
保管方法 | 法務局、公証役場、自宅金庫等 | 自由(家族に託すことが多い) |
遺言書の作成方法と種類
遺言書には3つの方式があり、それぞれメリット・デメリットがあります。特に2020年からは自筆証書遺言の法務局保管制度が始まり、利用しやすくなりました。
自筆証書遺言
メリット:
- 費用がかからない(0円)
- いつでも作成・修正が可能
- 内容を秘密にできる
デメリット:
- 日付や署名の不備で無効になるリスク
- 紛失・改ざんのリスク
- 家庭裁判所での検認手続きが必要
2020年からの改正点:法務局での保管制度が始まり、保管手数料3,900円で安全に保管できるようになりました。
作成の要件:
- 全文を自筆で書く(財産目録のみパソコン可)
- 日付を明記する
- 署名・押印する
公正証書遺言
公証役場で公証人に作成してもらう公的な遺言書です。
メリット:
- 専門家が関与するため、無効になるリスクが低い
- 公証役場で保管されるため紛失の心配がない
- 家庭裁判所での検認手続きが不要
デメリット:
- 費用がかかる(1〜10万円程度)
- 証人2名の用意が必要
- 内容が証人に知られる
費用の目安:
- 財産価額1,000万円以下:17,000円
- 財産価額3,000万円以下:23,000円
- 財産価額5,000万円以下:29,000円
秘密証書遺言
内容を秘密にしたまま作成し、公証人に提出・証明してもらう方法です。
メリット:
- 内容を秘密にできる
- パソコンでの作成が可能
- 公証人が遺言書の存在を証明
デメリット:
- 費用がかかる(11,000円+証人への謝礼)
- 法的形式の不備で無効になることがある
- 実際の利用者は少ない
実用性について:現在では自筆証書遺言の法務局保管制度があるため、秘密証書遺言を選ぶメリットは限定的です。
遺書の正しい役割と注意点
遺書は法的効力こそありませんが、心情面で大きな意味を持つ文書です。誤解やトラブルを避けるため、適切な書き方を理解しておきましょう。
遺書の適切な役割
- 感謝の気持ちや思いを伝える
家族へ
長い間、本当にありがとうございました。
特に○○さんには、病気の時に献身的に看病していただき、心から感謝しています。私の人生は、皆さんのおかげで幸せなものでした。
これからも家族仲良く過ごしてください。令和○年○月○日
- 人生の振り返りと教訓
- 心の整理と癒し
法的効力がないことの理解
重要な注意点:遺書に「○○に財産を渡したい」「借金は○○に負担してもらいたい」と書いても、法的な効力は基本的に発生しません。
実際のトラブル例:
- 遺書に「長男に全財産を」とあったが、無効扱いとなり法定相続どおりに分割
- 遺書の内容と遺言書の内容が矛盾し、家族が混乱
実際の相続に影響を与えるには、遺言書としての形式が必要です。
遺書に書いてはいけないこと
- 財産の分配に関する指示:期待を持たせるだけで後のトラブルに
- 特定の人への非難や批判:遺族の関係悪化の火種に
- 遺言書と矛盾する内容:相続人間の混乱を招く
遺言書と遺書の効果的な併用方法
遺言書と遺書は、併用するのが理想です。
- 遺言書:財産分割や相続手続きを明確に(法的効力)
- 遺書:家族への感謝や想いを伝える(心情面のケア)
さらに、遺言書には付言事項として想いを記すことができます。たとえば「なぜこの財産を特定の相続人に託したのか」を説明すれば、相続人の納得感が高まり、争いの予防に役立ちます。
【良い例】
遺言書:「A土地は長男に相続させる」
遺書(または付言):「A土地は長男が幼い頃から大切にしてくれたので、託したいと思います」
【悪い例】
遺言書:「A土地は長男に相続させる」
遺書:「本当は次男にA土地を渡したかった」
作成時期と更新のタイミング
遺言書の作成時期(推奨タイミング)
- 結婚・出産時
- 住宅購入時
- 事業承継を考える時
- 健康状態に変化があった時
- 60歳を迎えた時
更新の必要性
遺言書の更新が必要な場合:
- 財産状況の大幅な変化
- 相続人の死亡や変化
- 税制改正
- 家族関係の変化
更新頻度の目安:3〜5年に1度の見直しが理想的です。
保管方法と管理のポイント
せっかく作成した遺言書や遺書も、適切に保管されていなければ意味がありません。紛失や改ざんを防ぎ、必要な時に確実に発見してもらえるようにしましょう。
遺言書の保管
- 法務局(自筆証書遺言のみ)
- 費用:3,900円
- メリット:安全・確実
- デメリット:手続きが必要
- 公証役場(公正証書遺言)
- 費用:作成時に含まれる
- メリット:自動的に保管
- デメリット:特になし
- 自宅の金庫
- 費用:無料
- メリット:いつでもアクセス可能
- デメリット:紛失・改ざんのリスク
遺書の保管
- 信頼できる家族に預ける
- 遺言書と同じ場所に保管
- 複数部作成して分散保管
無効になりやすい遺言書の特徴
よくある無効事例
- 形式的要件の不備:日付が「○月吉日」など不明確/署名・押印の欠落/代筆・PC作成(財産目録以外)
- 内容の不備:相続人や財産の特定が不十分/法的に不可能な内容/遺留分を完全に無視
- 能力の問題:判断能力の著しい低下時に作成/第三者による強制・詐欺
無効を避けるためのチェックリスト
作成前の確認事項:
- [ ] 財産の詳細な把握
- [ ] 相続人の確認
- [ ] 遺留分の計算
- [ ] 税務上の検討
作成時の確認事項:
- [ ] 日付の正確な記載
- [ ] 署名・押印の確認
- [ ] 内容の明確性
- [ ] 法的要件の遵守
専門家への相談のメリットと相談先
相談を検討すべきケース
- 財産が複雑:不動産が複数/事業を営む/株式・投資信託を保有
- 家族関係が複雑:再婚/子どもがいない/相続人同士の不仲
- 税務対策:相続税の可能性/贈与との最適化
相談先と費用の目安
- 行政書士:遺言書作成・相続手続き/目安3〜10万円
- 司法書士:不動産登記・相続手続き/目安5〜15万円
- 弁護士:相続争い・複雑案件/目安10〜30万円
- 税理士:相続税対策/目安10〜20万円
まとめ
重要なポイント:
- 遺言書=法的効力あり(民法第960条以降)/遺書=想いを伝える文書(法的効力なし)
- 両方を適切に使い分けることで、家族の安心と納得が得られる
- 無効を防ぐには、形式の遵守と専門家のチェックが有効

okusokuでは、終活や相続、デジタル遺品整理に関する情報を、正確でわかりやすくまとめています。読者の方が「迷わず次のステップに進める」「家族と安心して話し合える」ように、実用的で保存して役立つコンテンツづくりを心がけています。