「親が多額の借金を残して亡くなった」「兄弟と揉めたくないから遺産は放棄したい」──そんなときに検討すべき選択肢が「相続放棄」です。
しかし、相続放棄には厳密な手続きと期限(3か月以内)があり、正しく進めなければ「放棄したつもりでも無効だった」というケースも起こり得ます。
本記事では、相続放棄の基本から手続きの流れ、注意点までを図解やチェックリストを交えてわかりやすく解説していきます。
目次
【重要】緊急チェック!今すぐ確認すべき3つのポイント
相続放棄を検討している方は、まず以下を確認してください。
期限は大丈夫?
- 相続開始を知った日から3か月以内(土日祝日も含む)
- 例:4月10日に死亡を知った場合 → 7月10日まで
財産に手を付けていない?
- 故人の預金を使っていない
- 不動産を売却していない
- 保険金以外の財産を処分していない
次の相続人への影響は?
- 自分が放棄すると、次順位の人に相続権が移る
- 事前に親族への説明が必要
1つでも不安があれば、すぐに専門家に相談を!
相続放棄とは?まず知っておきたい基礎知識
相続放棄の定義と効果
相続放棄とは、法定相続人が「相続する権利を放棄する」という意思を家庭裁判所に申し立てることです。
これにより、最初から相続人ではなかったことになるという法律上の効果が生じます。
相続放棄と「相続しない」との違い
「遺産はいらない」と親族に伝えるだけでは、法的な相続放棄にはなりません。
必ず家庭裁判所での手続きを経なければ、債務(借金)などを引き継いでしまう可能性があります。
相続放棄の期限(3か月ルール)の正しい理解
相続が発生したことを知った日から3か月以内に、家庭裁判所へ申述しなければなりません。
期限の具体的な計算方法
- 起算日:相続開始を知った日(通常は死亡を知った日)
- 期限:起算日から3か月後の同じ日の前日まで
- 例:1月15日に死亡を知った場合 → 4月14日まで
この期間を過ぎると、原則として相続を承認したものとみなされます。
相続順位と放棄の影響
相続放棄をすると、次順位の相続人に権利が移ります:
- 配偶者(常に相続人)
- 第1順位:子・孫(直系卑属)
- 第2順位:父母・祖父母(直系尊属)
- 第3順位:兄弟姉妹・甥姪
例:子が全員放棄 → 父母が相続人になる
相続放棄が必要になる代表的なケース
借金が多い相続
最も典型的な理由が「故人が多額の借金を残していた場合」です。
財産よりも負債が大きければ、相続放棄をすることで借金を相続せずに済みます。
兄弟や親族との関係悪化
遺産分割をめぐるトラブルに巻き込まれたくない場合も、相続放棄は有効です。
家庭内の対立を回避したいという心理的理由から選ばれることもあります。
遺産の分配で揉めたくない場合
特定の人に全ての財産を渡したい場合、他の相続人が放棄することで、円滑な遺産分割が可能になります。
連帯保証人になっている場合
故人が誰かの連帯保証人だった場合、その債務も相続の対象となります。
相続放棄の手続きの流れ【ステップ別に解説】
1. 財産・負債の調査
預貯金や不動産、借金などを確認します。
調査すべき項目
- プラスの財産:預貯金、不動産、株式、保険金など
- マイナスの財産:借金、クレジット債務、連帯保証債務など
- 必要書類:通帳、クレジット明細、借用書、固定資産税納税通知書など
2. 必要書類の準備
基本書類
- 相続放棄申述書(裁判所様式)
- 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)
- 自身の戸籍謄本
- 被相続人の住民票除票
関係性により追加で必要な書類
- 配偶者の場合:被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本
- 子の場合:被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本
- 父母の場合:被相続人の出生時から死亡時までの全戸籍謄本、子の死亡記載のある戸籍謄本
その他
- 収入印紙800円(1人あたり)
- 郵便切手(裁判所により異なる、通常400〜800円)
- 返信用封筒
3. 家庭裁判所への申述
被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。
郵送でも可能ですが、不備があると差し戻されるため注意が必要です。
4. 照会書の回答と受理通知の到着
裁判所から照会書が届いたら、記入・返送します。
問題がなければ、「相続放棄申述受理通知書」が発行されます。
相続放棄の注意点と落とし穴
一部でも財産を使うと放棄できない?(単純承認の罠)
相続放棄前に財産を処分・使用すると「単純承認」と見なされることがあります。
単純承認になる行為の具体例
- 故人の預金を引き出して使用
- 不動産の売却や賃貸
- 株式の売却
- 借金の返済(故人の財産から)
- 家財道具の処分・売却
注意が必要だが許可される場合もある行為
- 葬儀費用の支払い:社会通念上必要な範囲であれば可
- 生命保険金の受取:受益者指定があれば通常は問題なし
- 遺族年金の受給:相続財産ではないため問題なし
期限を過ぎたらどうなる?
3か月の申述期間を過ぎると、原則として放棄はできません。
例外的に放棄が認められるケース
- 相続財産の存在を知らなかった合理的理由がある
- 借金の存在を隠されていた
- 3か月経過後に新たな債務が判明した
ただし、特殊な事情が必要なため、弁護士に相談を。
子や孫への影響(次順位相続への波及)
相続放棄をすると、次順位の相続人に相続権が移ることがあります。
具体例
- 子A・B・Cが全員放棄 → 両親が相続人
- 両親も放棄 → 故人の兄弟姉妹が相続人
- 兄弟姉妹も放棄 → 甥・姪が相続人
放棄前に必ず次順位の相続人に説明を!
相続放棄にかかる費用と時間
必要な費用一覧
項目 | 金額の目安 |
---|---|
収入印紙 | 800円(1人あたり) |
郵便切手代 | 約400〜800円 |
戸籍謄本取得 | 1通あたり450円程度 |
住民票除票 | 1通あたり300円程度 |
固定資産評価証明書 | 1通あたり300円程度 |
合計 | 約3,000〜5,000円 |
手続きにかかる期間の目安
提出から受理までは2週間〜1か月程度が一般的です。
不備があるとさらに時間がかかる可能性もあります。
弁護士や専門家に依頼した場合のコスト
専門家 | 費用相場 | 特徴 |
---|---|---|
司法書士 | 3万円〜5万円 | 書類作成・提出手続きに特化 |
弁護士 | 5万円〜10万円 | 法的トラブル対応も可能 |
行政書士 | 2万円〜4万円 | 基本的な書類作成のみ |
トラブルを防ぎたい方や、時間がない方には検討の価値ありです。
相続放棄と他の選択肢を比較しよう
単純承認との違い
何も手続きせず、財産を受け取ると自動的に単純承認とみなされます。
借金も含めて全て相続することになります。
限定承認との違い
財産の範囲内でのみ負債を返済する「限定承認」も選択肢ですが、相続人全員の合意が必要であり、手続きが煩雑です。
3つの選択肢の比較表
選択肢 | メリット | デメリット | 手続き |
---|---|---|---|
単純承認 | 全財産を相続 | 借金も全て相続 | 特になし |
限定承認 | 借金は財産の範囲内 | 手続き複雑、相続人全員の合意必要 | 3か月以内に申述 |
相続放棄 | 借金を一切相続しない | 財産も一切相続できない | 3か月以内に申述 |
判断基準チェックリスト|放棄すべきかの判断
財産面での判断
- 借金が資産を上回っている
- 連帯保証債務がある
- 将来的に債務が発生する可能性がある
手続き面での判断
- 財産を一切使っていない
- 放棄の期限内である(3か月以内)
- 必要書類を揃えることができる
家族関係での判断
- 親族と遺産でもめたくない
- 次順位の相続人に影響を確認済み
- 家族の理解を得られている
専門家への相談が必要なケース
- 借金の詳細が不明
- 連帯保証人かどうか分からない
- 既に財産を使ってしまった
- 期限が迫っている
相続放棄に迷ったときの対処法
誰に相談すべき?
各専門家の特徴
- 弁護士:法的トラブル回避に強い、複雑な案件に対応
- 司法書士:書類作成や提出手続きに強い、費用が比較的安い
- 行政書士:相続関係の基本的相談対応、初回相談向け
無料で相談できる窓口
- 市区町村の法律相談センター
- 法テラス(日本司法支援センター)
- 各士業会の無料相談会
- 提携士業のLINE無料相談
相談時に準備すべき資料
- 被相続人の戸籍謄本
- 財産・負債の一覧
- 通帳や借用書のコピー
- 家族関係図
まとめ|正しく相続放棄を行い、後悔しない選択を
相続放棄は、正しく手続きを進めれば借金の相続リスクを回避できる強力な選択肢です。
一方で、期限や書類不備などで失敗すると、望まぬ相続をしてしまうことにもなりかねません。
相続放棄成功の5つのポイント
- 期限を守る(3か月以内)
- 財産に手を付けない
- 必要書類を漏れなく準備
- 次順位相続人への配慮
- 迷ったら専門家に相談
迷っている方は、まずは無料相談やチェックリストを活用して一歩踏み出しましょう。
時間が経つほど選択肢は狭まります。今すぐ行動を起こすことが、最良の結果につながります。