「親の物忘れが激しくなって、契約や財産管理が心配…」「家族が認知症と診断されたけど、どうすれば良いかわからない」「高齢の親が詐欺に遭わないか不安で夜も眠れない」
そんな不安を抱えている方は多いのではないでしょうか。認知症や障害などで判断能力が不十分になった大切な家族を、法律的にしっかりと守る制度が「成年後見制度」です。
この記事では、制度の仕組みから手続きの流れ、費用の目安や必要書類まで、初めての方にもわかりやすく解説します。家庭での備えや親族の支援を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
目次
成年後見人の手続きの流れ|申立てから選任まで
成年後見制度の利用には、家庭裁判所への申立てが必要です。「何から始めれば良いかわからない」という方のために、おおまかな流れをご説明します。
手続きの全体スケジュール
1. 事前準備・情報収集(1〜2週間)
- 本人の状況確認
- 必要書類のリストアップ
- 専門家への相談検討
2. 必要書類の準備・収集(2〜4週間)
- 戸籍謄本・住民票の取得
- 診断書の依頼・取得
- 財産目録の作成
3. 家庭裁判所へ申立て(1日)
- 書類提出
- 収入印紙・郵便切手の納付
4. 裁判所での審理期間(2〜3か月)
- 本人・申立人の面接
- 医師の診断書確認・精神鑑定(必要に応じて)
- 後見人候補者の調査
5. 後見人の選任決定(1〜2週間)
- 審判書の送達
- 後見登記の手続き
6. 後見業務の開始
- 財産目録の提出
- 年次報告の準備
手続きにかかる期間の目安
- 通常ケース: 3〜4か月程度
- 鑑定や異議申立てがある場合: 最大6か月程度
- 緊急性が高い場合: 審判前の保全処分で1〜2か月で暫定的な対応可能
成年後見人とは?制度の仕組みを分かりやすく解説
成年後見人とは、判断能力が不十分な人の財産管理や身上監護を法的にサポートする人です。単なる「お世話係」ではなく、法律で定められた重要な責任を担います。
成年後見制度の2つの種類
法定後見制度
本人の判断能力が既に不十分な場合に、家庭裁判所が後見人を選任する制度です。本人や家族の意思に関係なく、裁判所が最適と判断した人を選任します。
任意後見制度
本人の判断能力があるうちに、将来に備えて契約を結んでおく制度です。「もしものとき」に備えて、信頼できる人と事前に契約しておけます。
後見・保佐・補助の違いと支援内容
類型 | 判断能力の程度 | 主な支援内容 | 具体的な権限 |
---|---|---|---|
後見 | ほとんどない | 財産管理・契約代理 | 全ての法律行為の代理・取消権 |
保佐 | 著しく不十分 | 一部の契約同意・取消権 | 借金・不動産売買等の同意権 |
補助 | 不十分 | 指定範囲の契約同意 | 申立てで定めた範囲の同意権 |
成年後見人が必要になるケースと判断のタイミング
成年後見制度の利用を検討するタイミングは、家族によって様々です。「まだ早いかも」と思っているうちに手遅れになることもあるため、適切な判断基準を知っておくことが重要です。
成年後見制度が必要となる主な状況
- 認知症の進行により金銭管理が困難になった高齢者
- 知的障害のある子どもが成人した後の財産管理
- 精神障害により契約の判断が難しいケース
- 脳血管疾患の後遺症で意思疎通が困難な場合
家族が気をつけたい申立てのタイミング
- 高齢者が高額契約や投資話に興味を示し始めた
- 詐欺被害に遭った経験がある
- 預金の出金や不動産の処分が必要になった
- 介護サービス契約で本人の判断能力が問題となった
- 相続手続きで本人の意思確認が困難
必要書類と準備のポイント|スムーズな申立てのために
家庭裁判所に提出する書類は多岐にわたります。事前準備がスムーズな手続きの鍵になります。
主な必要書類一覧
書類名 | 内容 | 発行元・作成者 | 注意点 |
---|---|---|---|
申立書 | 制度利用の理由・内容を記載 | 家庭裁判所HPより取得 | 裁判所ごとに様式が異なる |
戸籍謄本 | 本人・申立人の身分確認 | 市区町村役所 | 3か月以内発行のもの |
住民票 | 現住所の確認 | 市区町村役所 | 世帯全員分が必要 |
診断書 | 判断能力の有無を記載 | 医療機関 | 家庭裁判所指定の様式必須 |
財産目録 | 預金・不動産・収支など | 家族または専門家作成 | 証憑資料の添付必要 |
書類作成・準備のチェックリスト
事前準備段階
- 本人の医療機関で診断書の相談
- 本人の財産状況の把握(通帳・不動産権利証等)
- 本人の収支状況の整理
書類収集段階
- 戸籍謄本・住民票の取得(3か月以内)
- 診断書の取得(指定様式で医師に依頼)
- 財産目録の作成(預金残高証明書等添付)
- 収支予定表の作成
提出前最終確認
- 申立書の記載内容に漏れがないか
- 必要書類がすべて揃っているか
- 収入印紙・郵便切手の準備
書類作成時の重要な注意点
診断書について
家庭裁判所指定の様式以外は受理されません。かかりつけ医が精神科医でない場合、精神科での診断が必要になることがあります。
財産目録について
預金残高証明書、不動産登記簿謄本、保険証券など証憑資料の添付が必須です。概算ではなく正確な金額が求められます。
費用と期間の詳細|予算計画の立て方
成年後見人制度の申立てには複数の費用が発生します。事前に予算を立てて、計画的に準備しましょう。
申立てにかかる費用の詳細(2024年基準)
項目 | 金額(概算) | 支払先 | 備考 |
---|---|---|---|
収入印紙 | 800円 | 家庭裁判所 | 申立て手数料 |
郵便切手 | 3,000〜5,000円 | 家庭裁判所 | 裁判所により異なる |
診断書作成費用 | 5,000〜10,000円 | 医療機関 | 医療機関により異なる |
鑑定費用(必要時) | 5万〜10万円 | 家庭裁判所 | 鑑定が必要と判断された場合 |
専門家報酬(任意) | 10万〜30万円 | 弁護士・司法書士等 | 書類作成・手続き代行 |
継続的にかかる費用
後見人への報酬
- 親族後見人:無報酬が一般的
- 専門職後見人:月額2〜6万円程度(財産額により変動)
年次報告関連費用
- 専門職に依頼する場合:年間5〜10万円程度
費用負担を軽減する支援制度
法テラスの利用
収入・資産が一定基準以下の場合、書類作成費用の立替が可能です。
市区町村の成年後見支援センター
申立て費用の助成制度がある自治体もあります。お住まいの市区町村に問い合わせてみましょう。
成年後見制度利用支援事業
市区町村長申立ての場合、申立て費用や後見人報酬の助成を受けられる場合があります。
後見人の選び方と専門家への相談ガイド
後見人は家庭裁判所が選任しますが、申立て時に希望を伝えることができます。親族か専門職か、どの専門家に依頼するかで手続きの進み方や費用が大きく変わるため、事前に特徴を理解しておきましょう。
後見人になれる人・なれない人
後見人になれる人
- 本人の親族(配偶者・子・親・兄弟姉妹等)
- 弁護士・司法書士・社会福祉士等の専門職
- 社会福祉協議会等の法人
- 市民後見人(研修を受けた一般市民)
後見人になれない人
- 未成年者
- 破産者で復権していない人
- 本人に対して訴訟を起こしている人・その配偶者・直系血族
- 行方不明者
専門家選びのポイント
弁護士に依頼すべきケース
- 親族間で争いがある
- 複雑な法的問題がある
- 高額な財産管理が必要
司法書士に依頼すべきケース
- 不動産の管理・処分が中心
- 比較的シンプルな財産管理
- 費用を抑えたい
行政書士に依頼すべきケース
- 書類作成のみ依頼したい
- 申立て手続きのサポートが欲しい
- 費用を最小限に抑えたい
成年後見人の役割と責任|就任後の重要な業務
後見人には法的な重要な責任が課されるため、就任前にその内容をしっかり理解しておく必要があります。
主な業務内容
財産管理業務
- 預貯金・有価証券の管理
- 不動産の管理・処分
- 年金・給付金の受給手続き
- 税務申告・納税手続き
身上監護業務
- 医療・介護サービス契約の代理
- 入院・入所手続きの代理
- 住居確保に関する契約
報告業務
- 年1回の財産状況報告書提出(家庭裁判所宛)
- 重要な財産処分時の許可申請
後見人が注意すべき義務と制限
善管注意義務
本人の財産を自分の財産と同じかそれ以上に注意深く管理する責任があります。
私的流用の禁止
本人の財産を後見人個人や家族のために使用することは絶対に禁止されています。
身上監護の限界
本人の私生活や交友関係、思想・信条に関する事項には介入できません。
よくある質問(FAQ)
成年後見制度について、多くの方が抱かれる疑問や不安にお答えします。手続きを進める前に、これらの情報を参考にして準備を整えましょう。
後見人は誰が決めるのですか?
家庭裁判所が決定します。申立て時に候補者を記載できますが、裁判所が最終的に適任者を選任します。親族を希望しても、専門職が選ばれる場合があります。
後見人を解任したい場合はどうすればよいですか?
家庭裁判所に解任の申立てが可能です。財産の不適切な管理や義務違反、心身の故障などが理由として認められます。単なる人間関係の問題では解任は困難です。
任意後見と家族信託の違いは何ですか?
任意後見は本人の代理として契約行為を行う制度で、家族信託は財産の名義を信託先に移して管理する制度です。目的や財産の種類に応じて使い分けることができます。
後見人になると、どのくらいの時間がかかりますか?
月10〜20時間程度が目安です。財産の複雑さや本人の状況により変動します。専門職後見人の場合、効率的に業務を行えるメリットがあります。
成年後見制度を利用すると、本人の権利が制限されますか?
法律行為(契約等)については制限されますが、日常生活や人間関係には基本的に影響しません。選挙権も保持されます。
まとめ|適切な準備で大切な家族を守る
成年後見人制度は、判断能力が不十分になった方の生活と財産を守るために不可欠な制度です。
この記事のポイント
- 手続きには3〜4か月程度の期間が必要
- 事前の書類準備が成功の鍵
- 費用は申立て時に数万円〜十数万円
- 専門家の種類により得意分野が異なる
- 後見人には重要な法的責任がある
まずは家庭裁判所のホームページで最新情報を確認し、複雑な手続きについては弁護士・司法書士などの専門家への相談も検討してみてください。早めの準備と適切な専門家選びが、ご家族の安心な生活を支える第一歩となります。