「法定相続人って誰のこと?」「相続分はどのくらい?」
相続に関する話題でよく耳にする「法定相続人」。
しかし、その定義や対象となる人の範囲、順位、具体的な相続割合など、法律的な仕組みを正確に理解している人は多くありません。
この記事では、法定相続人の基本的な定義から、順位のしくみ、相続割合、誰までが対象になるのか、そして実際の確認方法までを図表付きでやさしく解説します。
目次
3分でわかる!法定相続人の基本知識
法定相続人=民法で定められた「相続権を持つ人」
法定相続人とは、被相続人(亡くなった人)の財産を法律に従って引き継ぐ権利があるとされる人のことを指します。民法887条から890条で定められており、順位や割合も法律によって決まっています。
遺言相続人との違いとは?
法定相続人 | 遺言相続人 |
---|---|
民法で決められた相続人 | 遺言で指定された相続人 |
遺言がない場合に適用 | 遺言がある場合に優先 |
相続割合も法定 | 被相続人が自由に決定可能 |
遺言によって財産を譲り受ける「遺言相続人」は、被相続人の意思で決められます。
一方、法定相続人は「もし遺言がなかったらこの人が受け継ぐ」という枠組みであり、遺言があればそちらが優先されます。
遺言書を残すことで、法定相続とは異なる形で財産を分けることが可能になります。
法定相続人の順位を図解でわかりやすく解説
法定相続人には明確な「順位」があります。上位の順位の人がいる場合、下位の順位の人は相続人になれません。
相続順位一覧表
順位 | 相続人 | 条件 | 代襲相続 |
---|---|---|---|
常に相続人 | 配偶者 | 法律婚のみ | なし |
第1順位 | 子・孫(直系卑属) | – | あり(孫→ひ孫) |
第2順位 | 父母・祖父母(直系尊属) | 第1順位がいない場合 | なし |
第3順位 | 兄弟姉妹・甥姪 | 第1・2順位がいない場合 | あり(甥姪まで) |
第1順位:子(直系卑属)
最も優先されるのは、亡くなった人の子どもや孫など、直系卑属です。
ポイント
- 実子・養子・非嫡出子を問わず対象
- 子がすでに亡くなっている場合は、その子(つまり孫)が代襲相続
- 孫も亡くなっている場合は、ひ孫が相続(再代襲相続)
第2順位:直系尊属(父母・祖父母)
子や孫がいない場合、次に優先されるのが直系尊属です。
ポイント
- 通常は父母が対象
- 父母が亡くなっている場合は祖父母に相続権が移る
- 代襲相続はなし
第3順位:兄弟姉妹
直系卑属・直系尊属がいない場合は、兄弟姉妹が相続人になります。
ポイント
- 全血兄弟姉妹と半血兄弟姉妹では相続分が異なる
- 兄弟姉妹が亡くなっている場合は、その子(甥・姪)が代襲相続
- 甥・姪の子(被相続人の大甥・大姪)への再代襲相続はなし
配偶者は常に相続人
配偶者(法律上の婚姻関係にある配偶者)は、常に法定相続人です。ただし、他の相続人の順位によって「配偶者と誰が一緒に相続するか」が変わります。
注意:内縁関係は対象外
婚姻届を出していない事実婚・内縁関係は法定相続人になれません
法定相続分(相続割合)の具体的な計算方法
法定相続人が決まったら、次に重要なのが「誰がどのくらい相続するか」という割合です。
相続パターン別の法定相続分一覧表
相続人の組み合わせ | 配偶者 | その他の相続人 |
---|---|---|
配偶者+子 | 1/2 | 子全員で1/2を均等分割 |
配偶者+直系尊属 | 2/3 | 直系尊属全員で1/3を均等分割 |
配偶者+兄弟姉妹 | 3/4 | 兄弟姉妹全員で1/4を均等分割※ |
子のみ | – | 子全員で均等分割 |
直系尊属のみ | – | 直系尊属全員で均等分割 |
兄弟姉妹のみ | – | 兄弟姉妹全員で均等分割※ |
※半血兄弟姉妹の相続分は全血兄弟姉妹の1/2
具体的な計算例
【例1】遺産1,000万円、配偶者+子2人の場合
- 配偶者:1,000万円 × 1/2 = 500万円
- 子A:1,000万円 × 1/2 × 1/2 = 250万円
- 子B:1,000万円 × 1/2 × 1/2 = 250万円
【例2】遺産1,000万円、配偶者+父母の場合
- 配偶者:1,000万円 × 2/3 = 約667万円
- 父:1,000万円 × 1/3 × 1/2 = 約167万円
- 母:1,000万円 × 1/3 × 1/2 = 約167万円
【例3】遺産1,000万円、配偶者+兄弟2人の場合
- 配偶者:1,000万円 × 3/4 = 750万円
- 兄:1,000万円 × 1/4 × 1/2 = 125万円
- 弟:1,000万円 × 1/4 × 1/2 = 125万円
法定相続人の範囲|誰までが対象になる?
法定相続人になれるかどうかは、戸籍上の関係や民法の規定によって決まります。意外と誤解されがちなケースについて詳しく解説します。
相続人になれる人・なれない人の判定表
関係 | 相続人になれるか | 備考 |
---|---|---|
法律上の配偶者 | ○ | 婚姻届提出済み |
内縁・事実婚の配偶者 | × | 遺言でカバー可能 |
実子 | ○ | – |
養子 | ○ | 普通養子・特別養子とも |
連れ子 | × | 養子縁組すれば○ |
胎児 | ○ | 生きて生まれた場合 |
代襲相続人(孫・甥姪) | ○ | 被代襲者が先死亡の場合 |
特殊なケースの詳細解説
養子について
- 普通養子:実親・養親双方の相続人になる
- 特別養子:養親のみの相続人になる
- 相続税計算では法定相続人数に制限あり
代襲相続について
- 相続開始前に子・兄弟姉妹が死亡している場合に適用
- 相続放棄の場合は代襲相続は発生しない
- 相続欠格・廃除の場合は代襲相続が発生
胎児について
- 相続開始時に胎児でも、生きて生まれれば相続人
- 死産の場合は相続人にならない
ケース別|あなたの家族構成では誰が相続人?
典型的な家族構成パターンを例に挙げて、実際に誰が相続人になるかを具体的にイメージできるように解説します。
パターン1:子どもがいない夫婦の場合
相続人:配偶者+直系尊属(両親が存命の場合)
法定相続分:配偶者2/3、両親1/3(父母各1/6)
両親が亡くなっている場合は、配偶者+兄弟姉妹が相続人になります。
パターン2:配偶者が先に亡くなっていた場合
子がいる場合:子のみが相続人(均等分割)
子がいない場合:直系尊属または兄弟姉妹が相続人
パターン3:離婚・再婚がある場合
前妻との子:相続人になる
現在の配偶者の連れ子:養子縁組していなければ相続人にならない
現在の配偶者との子:相続人になる
パターン4:単身者の場合
- 両親が存命:両親が相続人
- 両親死亡、祖父母存命:祖父母が相続人
- 直系尊属なし:兄弟姉妹が相続人
- 兄弟姉妹死亡:甥姪が相続人
法定相続人の確認方法|実務で必要な手順
実際に「自分が相続人かどうか」「他に相続人がいないか」を確認するには、以下のような手続きが必要になります。
ステップ1:戸籍をさかのぼって取得する
必要な戸籍
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
- 法定相続人全員の現在戸籍
取得方法
- 本籍地の市区町村役場で申請
- 郵送での取得も可能
- 手数料:戸籍謄本450円、除籍謄本750円
ステップ2:相続関係説明図を作成する
戸籍情報をもとに「誰がどんな関係にあるか」を図にまとめたものが相続関係説明図です。
記載事項
- 被相続人の情報(氏名、生年月日、死亡年月日、本籍地)
- 相続人の情報(氏名、生年月日、続柄、住所)
- 相続関係を示す系図
ステップ3:必要書類の準備
金融機関・法務局で必要な書類
- 戸籍謄本一式
- 相続関係説明図
- 印鑑証明書(相続人全員分)
- 遺産分割協議書(作成する場合)
あなたの相続人確認チェックリスト
相続で知っておくべき重要な制度
相続放棄・限定承認
相続放棄
- 相続開始を知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述
- プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しない
- 代襲相続は発生しない
限定承認
- 相続人全員で行う必要がある
- プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ
- 相続開始を知った時から3ヶ月以内に申述
相続欠格・廃除
相続欠格
- 故意に被相続人を死亡させた場合など
- 法律上当然に相続権を失う
- 代襲相続は発生する
相続人の廃除
- 被相続人の意思により相続権を奪う制度
- 家庭裁判所の審判が必要
- 代襲相続は発生する
よくある質問(FAQ)
Q1. 離婚した前妻は相続人になりますか?
A1. なりません。法定相続人になるのは、相続開始時に婚姻関係にある配偶者のみです。ただし、前妻との子は相続人になります。
Q2. 養子は何人まで法定相続人になれますか?
A2. 民法上は制限がありませんが、相続税の計算では法定相続人の数に含められる養子の数に制限があります(実子がいる場合1人、いない場合2人まで)。
Q3. 相続人の中に行方不明者がいる場合はどうすればいいですか?
A3. 不在者財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立てるか、失踪宣告の手続きを行う必要があります。
Q4. 相続人が未成年の場合は?
A4. 親権者が法定代理人として遺産分割協議に参加します。ただし、親権者も相続人の場合は利益相反となるため、特別代理人の選任が必要です。
Q5. 法定相続分と異なる分割はできますか?
A5. できます。相続人全員の合意があれば、法定相続分と異なる割合で遺産分割することが可能です。
専門家に相談すべきケース
以下のような場合は、弁護士や司法書士などの専門家に相談することをお勧めします。
- 相続人が多数いて関係が複雑
- 行方不明の相続人がいる
- 相続人の中に認知症の方がいる
- 遺産に不動産が含まれる
- 相続税の申告が必要
- 相続人間で争いが生じている
- 相続放棄を検討している
まとめ|法定相続人を知ることが相続トラブル防止の第一歩
相続が「争続」にならないためにも、今のうちに法定相続人を把握しておくことが大切です。
まずは家族構成をもとに、あなたの相続順位を確認してみましょう。