「遺言書は絶対だから書いておけば安心」——そんな言葉を聞いたことがあるでしょうか。しかし実際の相続では、遺言書があるにもかかわらず「もめた」「内容が無効になった」という例も少なくありません。
結論:遺言書は「絶対」ではありませんが、正しく作成すれば非常に強力な効力を持ちます。
本記事では、遺言書の真の効力と限界、そして「より絶対に近づける」方法を詳しく解説します。
目次
遺言書は「絶対」なのか?法的効力の真実
遺言書の法的効力とその条件
遺言書の作成方法や効力は、すべて法律(民法)で細かく決められています。以下は、特に関係する主な条文とその内容です。
- 民法第960条:遺言書は、法律で定められたルールに従って作らなければ無効になります。つまり、「正しい形式」で書かれていない遺言は効力を持ちません。
- 第961条〜第970条:自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3種類の方式と、それぞれの作り方のルールが定められています。
- 第976条:作った遺言は、本人の意思でいつでも取り消すこと(撤回)ができます。
- 第1004条〜第1008条:遺言書の効力がいつ発生するのか(=本人が亡くなったとき)、また「遺言執行者」(遺言の内容を実際に実行する人)の役割が定められています。
- 第1025条〜第1027条:遺言執行者がどこまでの権限を持ち、どのように義務を果たすべきかが定められています。
これらの条文はすべて民法で定められており、信頼できる一次情報として確認できます。
出典:e-Gov法令検索「民法」
これらの条件を一つでも欠くと、遺言書は「無効」となる可能性があります。
遺言書の種類別・効力の強さ比較
| 種類 | 有効性の高さ | 無効リスク | 家庭裁判所の検認 | 作成費用の目安 |
|---|---|---|---|---|
| 自筆証書遺言 | 中程度 | 高い | 必要 | 数百円〜数千円 |
| 公正証書遺言 | 高い | 低い | 不要 | 5万円〜20万円 |
| 秘密証書遺言 | 低い | 高い | 必要 | 1万円〜3万円 |
最も「絶対に近い」のは公正証書遺言
- 法的チェックにより無効リスクが極めて低い
- 公証役場に原本が保管されるため安全
- 家庭裁判所の検認が不要
2019年法改正:自筆証書遺言も法務局での保管制度がスタートし、安全性が向上しました。
遺言書にも限界がある?3つの制限ケース

「遺言書さえあればすべて思い通りにできる」と思われがちですが、実際には法律上いくつかの制限があります。ここでは、代表的な3つのケースをわかりやすく紹介します。
1. 遺留分(いりゅうぶん)を侵害している場合
遺留分とは、配偶者や子どもなどの近い家族に法律で保障された「最低限の取り分」のことです。どんなに遺言書で偏った内容を書いても、遺留分までは奪うことができません。
- 配偶者・子ども → 法定相続分の 1/2
- 父母 → 法定相続分の 1/3
- 兄弟姉妹 → 遺留分なし
たとえば: 財産が2,000万円ある家庭で「すべてを妻に相続させる」と遺言しても、子どもは自分の遺留分(法定相続分の半分=500万円)を請求する権利があります。これを「遺留分侵害額請求」といいます。
2. 相続人全員の合意がある場合
遺言書に書かれた内容であっても、相続人全員が合意すれば、異なる分け方をすることができます。これを「遺産分割協議」といい、家族全員が納得している場合に限り、遺言内容よりも優先されます。
3. 遺言書そのものが無効とされる場合
遺言書が形式的に正しく作られていなかったり、書いた時点で判断力に問題があったりすると、法律上「無効」とされることがあります。
- 書いた人に意思能力がなかった(認知症など)
- 他人に強制されて書いた、または偽造された
- 日付・署名・押印の欠落など、法律で定められた形式を守っていない
こうしたケースを避けるためには、公正証書遺言のように専門家のチェックが入る方法で作成しておくと安心です。
実際のトラブル事例と対策

ケース1:遺言書の存在を知らないまま手続き
対策:遺言執行者の指定・家族への事前通知
ケース2:極端な内容で家族関係が悪化
対策:付言事項による理由説明・段階的な贈与
ケース3:認知症を理由とした無効主張
対策:医師の診断書取得・公正証書遺言による作成
遺言書の効力を最大化する5つのポイント
- 形式面の完璧性
- 全文自筆
- 正確な日付
- 署名・押印(実印推奨)
- 訂正ルールに沿った修正
- 内容の明確性曖昧な表現はトラブルのもとです。
- 付言事項の活用理由を丁寧に伝えることで争族防止に役立ちます。
- 遺言執行者の指定中立的な第三者の存在で手続きがスムーズに。
- 定期的な見直し家族構成や財産内容の変化に応じて更新しましょう。
遺言書だけでは足りない?総合的な相続対策

生前対策との組み合わせ
- 家族信託:判断力喪失時に備えた財産管理
- 任意後見制度:将来の後見人を事前に指定
- 生前贈与:相続税対策と争族予防を同時に実現
デジタル遺品の整理も重要
ネット銀行、SNS、パスワード管理も忘れずに。
よくある質問と回答
Q1:遺言書があれば必ずその通りに相続されるのですか?
必ずしもそうとは限りません。たとえ遺言書があっても、遺留分侵害額請求や、相続人全員が別の内容に合意するケースでは、遺言通りに相続されないことがあります。法的には強い効力を持ちますが、絶対とは言い切れません。
Q2:兄弟間でもめないために最も重要なことは何ですか?
公正証書遺言を作成し、付言事項で背景や想いを伝えることが有効です。加えて、生前の家族会議で相続方針を共有し、信頼できる第三者(弁護士など)を遺言執行者に指定することで、トラブルを回避しやすくなります。
Q3:遺言書がない場合、どのようなリスクがありますか?
遺言書がないと法定相続分での遺産分割となり、相続人全員の合意が必要になります。協議が長引いたり、不動産の共有状態が解消できないなどの問題が発生しやすく、結果として家族間の関係悪化や税務上の不利益につながる可能性があります。
Q4:遺言書を作成するのにどれくらいの費用がかかりますか?
自筆証書遺言であれば基本的に数百円〜数千円程度で作成できますが、公正証書遺言では公証人手数料などを含めて5万〜20万円程度かかります。専門家への相談費用も別途5万〜15万円ほど見込んでおくと安心です。
Q5:遺言書はいつ作成すべきですか?
「いつか」ではなく「今すぐ」が理想です。とくに認知症のリスクがある場合や、家族構成・財産内容に変化があったときは、早めに作成することで確実に意思を反映できます。元気なうちに準備しておくことが最も重要です。
まとめ:遺言書を「より絶対に近づける」ために
- 基本対策:公正証書遺言、遺留分配慮、付言事項、執行者指定
- 発展対策:家族信託、生前贈与、定期見直し、家族間共有
法的な効力を確保しつつ、家族の理解を得ることが、真に「絶対に近い」相続を実現します。
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